代表者・弁護士小野智博からのメッセージ 働き、学び、挑戦する行政書士の皆さんへ 代表者・弁護士小野智博からのメッセージ 働き、学び、挑戦する行政書士の皆さんへ
小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
代表弁護士

はじめに
皆さん、こんにちは。弁護士の小野智博と申します。私の自己紹介を兼ねて、私の行政書士受験生時代、行政書士時代、ロースクールに進学して弁護士になるまで、その後の弁護士としての活動について、どういったことをして、あるいはどういったことを考えて、どんな仕事をやってきたかという経験談をお話したいと思います。皆さんの中には、行政書士として登録・開業している方や行政書士の資格を持って企業で働いていらっしゃる方の他にも、行政書士の資格を持っているけれども現在はご家庭で育児をしている方、あるいは司法試験、法科大学院の受験勉強をしながら仕事をすることに興味がある方もいらっしゃるかもしれません。そういう方にもお役に立てればと思って、お話をさせていただきたいと思います。
法律に興味を持ったきっかけ
簡単に自己紹介ですが、私は平成10年に大学を卒業しまして、その後は一旦就職をしております。就職は日本自転車振興会といいまして、競輪を運営しているところ、およそ法律家とは関係なさそうなところですが、大学生の時に部活としてやっていた自転車レースが楽しくて、そのまま業界に就職しました。そこでは、全国の競輪場で行われるレースにどんな選手を行かせて、どんな選手がどんなレースをしたらこれぐらい売上が上がって、これくらいの収益が国に入る、というようなプランを立てる仕事をしていました。そこからなぜこういうキャリアパスを辿っているのかということですが、私は大学の学部も環境情報学部というところにおりまして、大学時代に法律というのは一切やっておりません。就職してから、競輪は皆さんあまり馴染みがないかもしれませんけれども、ギャンブルですよね。ギャンブルは一応、日本では禁止されています。それをやって良いのは何故かというと、ギャンブルを禁止している刑法の特別法がそれを許しているからですね。自転車競技法という法律です。ということは、何をやるにしても日々の業務の中で法律を使う場面というのが出てくるんですね。ある手続き、ある処分、何をするにしても、その根拠は何ですかと、自転車競技法第何条何項にこう書いてあるので、それに基づきこの手続きを行います、ということを日々書いていく、そういう職場だったんです。その時初めて法律に触れまして、なかなか面白いなと思いました。私はもともと半分理系の部分がありまして、大学時代は情報処理でコンピューターのプログラムを書いたりしたことがあったので、法律がプログラムに似ているところもあるなと思ったりもしました。システマチックに出来ていて、目的を達成するためのルールがいっぱい書いてあるんだな、というようなことを思った記憶があります。それが、法律に興味を持ったきっかけです。
行政書士を目指した理由
その頃から、興味をもって法律の本を読んだり、自分にも法律の世界で何かできることがないだろうかと考えるようになりました。行政書士という仕事を知ったのもその頃です。自分の職場は行政の一部だったので、自分に置き換えて考えてみました。競輪の収益金というのは社会に還元されます。皆さんも多分見たことあると思うのですが、駅前の駐輪場とか、あるいはレントゲンの車とか、ああいうところには競輪補助事業と書いてあって自転車のマークがあったりします。ああいうところに、補助金という形で収益を還元することになっています。仕組みはどうなっているかというと、そういった補助金を出してほしい団体が申請に来ます。我々はこういう事業をやっていて、こういうお金が必要です。ついては、これこれのお金を予算として国から出してはもらえないでしょうかという申請をします。ただ、やっぱり行政手続というのは一般の方々にはなかなか馴染みのないもので、かつ非常に面倒くさいものなんですね。書類をいっぱい要求されて、ルールに従って書かなくてはいけなくて、それがすべての要件を満たしていなければ望む結果は得られない、一生懸命考えて書いも、足りないところはいっぱいあります。それを行政の側がここはこうですよ、ああですよ、と教えてあげたりしながら少しづつ話が進んでいくわけですね。私は、これはものすごいニーズがあるんじゃないのかなと。行政側と一般の方の間に入ってあげて、手続がうまくいくようにしてあげて、みんながハッピーになるというそういう仕事ができるんじゃないかなと思いました。それが行政書士という資格で、よし、じゃあまずは資格を取って自分で仕事にしようと決めて、職場を辞めて行政書士試験の勉強を始めました。
行政書士試験の勉強
行政書士試験に私が合格した平成14年の合格率は19.23%と高く、あまり偉そうなことは言えませんが、今でも変わらないことは、勉強しなくてはいけない範囲が非常に広いということですよね。科目も多少変わっていますが、科目数は多く、範囲は広い。受験生の皆さんもそこは苦労されているんじゃないかなと思います。私はその後、ロースクールに行って司法試験も受けましたから、更に広い範囲の勉強もしましたが、広い範囲の勉強をするときに、限られた時間で、試験の日は待ってくれないですから、そこまでの間にある程度の結果を出せるだけの勉強するためには、やっぱり効率が大事ですよね。効率よくやることです。そのやり方もそうですし、やる内容もそうだと思います。幅広くの知識を深くやってしまったら、終わらないですよね。なので、必要なことだけを効率よくやるということです。最近では予備校の行政書士試験の講座などもありますが、私の時はそのようなものはあまり無かったものですから、過去問集や模擬試験を集めてきて、解いて覚えてっていうことを繰り返して、わからないところは本で調べてというようにして、私の場合は勉強しました。ただやっぱりその時に質問できる相手がいないんですよね。なので、自分で考えながらやるしかなくて、遠回りの勉強だったんだろうと思います。なので、今であれば予備校を利用するのが良いのだろうなと思います。どこが出やすくて、どれぐらいの分量が出て、そこにはこれぐらいの時間をかけて勉強するのが良いというようなことを教えてくれる場所があるわけですから、あとは勉強するだけですよね。
勉強のモチベーション
勉強はやっぱり大変で、今日はちょっとやる気が起きないな、明日にしようか、みたいなことはよくありますよね。だけれど、勉強っていうのは私は思うんですけれども、ちょっと頑張れば必ず結果が出てくるものですよね。私は音楽が好きなんですけれど、ミュージシャンのインタビューなんか見ていると、作曲をする時に曲が浮かんで来る時はすぐ浮かんで来るけれど、浮かんで来ない時は1か月経っても浮かんで来ない、1年経っても良いものが出て来なくて、売れなければ食べていけないというようなことってあるわけですよね。そういう業界と比べてみれば、私たちの場合は1週間でも1ヶ月でも勉強すれば勉強しただけの結果が必ず出ます。それだけ覚えているわけですから、知識がついているわけですからね。もちろん、正しい方向に努力することは重要なので、自分の勉強の方向性が正しいかどうかはプロに相談するなどして確認しつつ、あとはやれば良いだけです。必ず結果はついてくると信じて、決めたやり方に従って、どれだけ時間をかけて頑張るか、そんな長い時間じゃないですから、1年2年必死でやることがあって良いと思います。モチベーションは、やっぱりなかなか無理やり作ろうとしても、難しいです。法律家になって何をしたいのか、あるいは何故そういうことをしようと思ったのか、その理由が自分の生活のどこにあるのか、ということをよくよく考えて納得しながら、努力を継続することが大切ですね。
行政書士の資格をどう活かすか
行政書士試験に合格した後、行政書士の仕事をするためためには登録をする必要があります。登録して自分の事務所を構えて、あるいは行政書士事務所に入って、初めて仕事ができるわけですが、これは都道府県によっても違うんですけれども、それなりのお金がかかるんですよね。20万円とか30万円とか。これはちょっと高い出費ですが、私のおすすめとしては、実務をぜひ経験されたら良いと思います。資格をとって合格しても、資格を持っているだけではやっぱり活きてこないです。資格を活かすためにはそれに基づいて自分がどんなことをしているのかということを人に話せるようにすることが大事だろうと思います。例えばですが、企業の就職や転職の面接に行く時に行政書士の資格を持っていれば役に立つのか、ロースクールに入るときに行政書士の資格持っていますって書いたら何か良いことがあるか、新司法試験受かった後に法律事務所に入ろうとする時それが役に立つか、やっぱり受かっただけでは役には立たないです。そういう人はいっぱいいるからです。私は受かった後にこういうことをしましたよ、こういうことをした結果こういうことを考えましたよ、だからこういうことをできるし、やろうと思っているんですよっていう話が出来る人、経験に基づく話ができる人はやっぱり相手も欲しいと思うんですね。ですから、せっかく行政書士の資格を持っているのであれば、登録して行政書士の実務をやっていただきたいなと思います。FTS法務研修会のメンバーの中には、企業に勤務しながら、副業で開業されている方もいらっしゃいます。
また、行政書士として開業して実務を行うことは、キャリアアップにも役立ちます。例えばですが、企業のために契約書を作成したり、チェックするという業務は、非常に法律の勉強にもなるし、自分の勉強した知識を活かせるし、行政手続きとはまた違う緻密な法律の分析をやれるということで、自分の勉強にもなります。それは行政書士としての実務の勉強にもなるし、その後のステップアップを考えるのであれば弁護士は同じ仕事をしていますからね。同じ仕事を将来するための糧になります。ちょっと話は変わりますが、最近の司法試験の問題は、昔の司法試験とは異なり、実務的な内容も増えています。例えば民事系の問題で、会社がこういう活動してこういう契約書を作ったとして、法律的にどういうところに注意する必要がありますか、というような問題も出たりします。そういった時に教科書だけの勉強をしているか、実務で契約書を見ているか、どっちが有利かっていうのは、それはもう一目瞭然ですよね。経験者は契約書を読むときに、全然見る場所が違うわけです。契約書を隅々まで読んで、網羅的にどこが危ないのかなっていうのを一生懸命探す、なんていう時間は本試験の最中にはなくて、やっぱりこういう契約であればこういうところが危ないんだということが身に染みて自分がわかっている、そういう状況であればすぐに着眼点が見つかります。実務ではどうやって契約上のリスクを解決しているのかということを知っていれば、試験のときにもそういうことが書けます。それは他の人と比べてものすごく有利な良い記述ができることになりますね。行政書士の実務は、そのようにキャリアアップにも役立ちます。
行政書士として行った業務
具体的に私が行政書士時代にどのような仕事をしていたのかということですが、私の場合はもともと行政機関にいたという経験がありますから、まずは行政庁対応、中でも特に補助金の申請の話というのは一つの得意分野でした。企業が、あるいは団体が、国や県や市の助成を受けて何らかの事業を進めようとする場合、要件を満たす申請書類を作ってあげて行政庁と掛け合って補助金をもらう許可を取ってくると。これは非常に喜ばれますよね。企業が補助金を得て、それによって事業が発展して成功するという事の一つのきっかけを作ってあげられるという非常にやりがいのある仕事です。
2番目に入管業務、これも行政書士の主要な仕事の一つですね。外国から日本に入って来ようとする人に在留資格認定証明書を取ってあげます。この仕事は非常に良いです。良いというのは、経験も積めるし、収益も上がるし、その後自分の経験として糧になる仕事だなと思いました。実際に今でも役に立っています。例えば私がやっていたのは、日本のITの会社にインド人のプログラマーを呼ぶというような案件です。作成する書面というのは多岐に渡りまして、その人が本当に日本でやってほしいと望まれているような技術を持った外国人なのかどうかということを証明するだけの資料を出さなくてはいけません。例えば、本国でのどういう大学院でどういうことを勉強したという証明書、あるいはどういう会社で何年働いてどういうことをやったという証明書、日本の雇い主が彼をどういう条件で雇うのかという雇用契約書、あるいはその人が必要だという理由を証明する書類、いろんなものを出すわけですが、大概英語ですよね。外国人、英語じゃない場合もあります。そういった場合はちょっと自分は一人ではできないので専門の人にも入ってもらいますが、英語であればまあ頑張ってどうにかやると。日本の行政庁、英語の文書はそのまま受け入れてくれないですから、本国から来た英語の書類を全部日本語に訳して持っていき、その必要性を入管の係官に一生懸命説明して証明書を取ってあげる、そういう仕事ですね。
3番目が著作権業務ですね。私がやっていたのはですね、これも普段の生活の中から生まれてきたものですが、ある時、友達と夜飲んでいたんですね。そうしたら、最近俺ホームページ作ったんだよって友達が言うわけですね。そのホームページで物を売り始めたと。その彼が海外に旅行に行ってこれはいいぞと思った、健康食品だったかな、商品をですね、日本に輸入してきて自分のホームページで売るということをやっていて、結構当たっていたんですね。人気があって売れていて、いいホームページです。工夫してあって、写真もきれいに撮れていて。それが最初は良かったんですけれどね、ある日急に売り上げがガクッと落ちたんですね。どうしたのかなと思って調べてみると、そっくり真似されているわけですよね。同じようなレイアウトの、同じような説明で同じような写真を付けた販売のサイトがちょっと安い値段で同じものを売っているわけですよ。それをやられてしまうとお客さんは当然そっちに流れますから商売あがったりですよ。彼は著作権侵害ということでやめてくださいよと交渉しようとしたそうですが、交渉の材料が欲しいという相談がありました。そこで、著作権の登録というのを文化庁にしに行って、文化庁で登録したという証明書を出してもらうわけです。そういったものを根拠にして、これ第一公表年月日の登録って言うんですけれども、いついつの時点でこういうホームページを私たちは作っているんです、それより後にやっているもので似ているものは真似ですよ、ということを主張しやすくしてあげました。行政書士は紛争対応や訴訟はできませんが、本人が交渉をするための材料を作ってあげることは、こんなふうにできるんですね。

4番目にやっていたこととしては、契約書のチェック、契約書作成ですね。ちょうどですね、私が行政書士になった頃なんですね。行政書士法が改正されまして、民民代理といいまして、契約書等の書類を代理人として作成するということが法律上認められたわけですね。そうなってくると、これは非常に仕事の範囲としては広いです。要するに弁護士法に違反するような法律事件に関するものでなければ、契約書業務を行えるということですよね。契約書の作成や契約書のチェックというのは日々の企業活動の中でものすごく広い需要があるわけですね。

私の行政書士時代は、そんな仕事をしていました。
行政書士と営業・失敗から学ぶ「行政書士は食えない資格?」
よく、行政書士、資格取っても食っていくのは大変という話がありますよね。私も、最初はそう思いましたし、実際に最初はそうでした。案件を獲得したいと思って、いろいろなことをやりました。例えば、企業に電話をかけて訪問のアポイントをとってみる。業界を決めて、会社の電話番号のリストをあつめて、一件一件電話しました。「社長さんいらっしゃいますか」「法務のご担当の方はいらっしゃいますでしょうか」「行政書士の小野と申します。法務サービスを提供しているのですが、よろしければ貴社を訪問してご説明させていただけないでしょうか。」こんな感じです。全然ダメでした。100件電話して、アポイントが1件とれるかどうか。そのアポイントも、当日会社に伺ったら忘れられていたり。情けなかったですね。自分のサービスをパンフレットにして、企業にDMを出したりもしました。これもまったく反応無しでした。いま思えば手作り感満載のパンフレットで、恥ずかしかったですね。そんな活動をするのにも、印刷代、電話代、交通費など、経費もかかるのに、全然収入もなく、事務所は赤字続き。とても辛い毎日でした。

その頃、そうやって辛い試行錯誤をしながら、考えたことがあります。やっぱりですね、お客さんになってほしいから何かをしているということは相手には絶対分かってしまうんですね。そうなると、やっぱり利害関係っていうのがいつまでも抜けなくて、信頼されないし、相手も忙しいですから、自分の話を聞くために時間を割いてくれません。そのような無理をするよりも、普段の生活の中で仕事を見つけられないかなと思うようになっていきました。行政書士の仕事の範囲は非常に広いですから、何でも仕事になる可能性があるんじゃないかと。
そんなとき、よく通っていた好きなレストランでお店の人と話をしているうちに、今度業態をちょっと変えたいと思うんだけれどみたいな話になったんですね。私が行政書士だということは普段の雑談の中で出ていましたから、こういう風にしてこういう手続きをして許可取らないと警察の指導来ちゃいますよって言ったら、あぁそれは大変だ、ぜひお願いしたいと、依頼をいただいたことがありました。このときですね。ああ、依頼というのはこうやって得られるものなんだと思いました。他にもですね、友達とお店で飲んでいて、夜12時を過ぎたときに、あれ、12時過ぎてこの店営業していいのかなとか、あるいはこのレストラン向こうにダーツあるなぁ、あれ、ダーツバーってレストランでやってよかったっけというようなことを、ぼんやり考えていました。それで、店員が店を閉めようとそわそわしているのを見て、ああ、そろそろ帰ったほうがいいですよね、なんて話してたら、お店の人と会話の糸口ができました。依頼者になりうるつながりというのはそういうところから生まれてくることが分かってきました。それはいわゆる一生懸命電話をかけたり、DMを送ったり、訪問して営業するようなスタイルとは違うけれど、そういうことを普通の生活の中でいつも考えながら人と接していくと、依頼の種は出てくるんだなと、理解できるようになりました。

その頃から、「依頼は仲間から生まれる」という発想で、自分がお付き合いしてきた全てのつながりを、もう一度あらためて、大切に意識するようになりました。そうしているうちに、最初に就職した職場や大学時代にアルバイトをしていた家庭教師センターなども、依頼者になってくれました。将来に渡って良いお付き合いをしたいのであれば、その時限りで終わらないようにすること、仕事が欲しいから付き合うのではなくて、仲間として付き合う、一緒に何かをやって楽しかった、あるいは一緒に何かを達成して充実感を一緒に味わった、自分が先に経験したことは教えてあげる、向こうから教えてもらう、こういった関係を継続して続けていくことは必ず後々いつか誰かが思い出してくれて、「あいつ」に相談しようということにつながります。「あいつ」に相談しようと思ってもらうためには、やっぱり「先生」じゃ駄目です。依頼者から「先生」と言われているうちは信頼されてないんじゃないかなと私は思っていて、今でもお付き合いさせていただいている昔からの社長さんは私のことは先生とは言わないです。弁護士になりましたが、今でも「小野ちゃん」です。ちゃん付けで呼ばれるぐらいでちょうど良いです。それぐらいであれば本音で話をしてくれるし、困ったときに気軽に連絡をくれます。そういったつながりから仕事は継続的に増えていきました。
働きながらロースクールで学ぶ
そのようにして行政書士の実務をやっていた頃、時々、歯がゆい思いをする時がありました。それは何かというと、依頼者が紛争に巻き込まれたときです。例えば契約書を作成してあげて、依頼者の仕事が円滑に行っていればいいですが、例えばその契約について、相手方と話が合わなくなり、代金を払わないとか、あるいは払ってくれないから訴えたいというような話になった時は、行政書士の職域からは外れます。そうなったときはどうするかというと弁護士さんを紹介して仕事を引き継いでもらいます。これは仕方ないです。自分もそのようにやっていましたが、自分でもやってみたいな、という思いもありました。でも、自分は法学部出身でもないし、司法試験に合格して弁護士になるのは大変だろうなとも思っていました。そうしているうちに、ちょうどその頃、日本でもロースクールができるということを知りまして、これだ、と思って挑戦しようと思いました。

法科大学院には2種類のコースがあるのは皆さんもご存知かと思うんですが、既修者コースと未修者コースというのがあるんですね。私は青山学院大学法科大学院の未修者コースの出身です。行政書士時代に法律を少しやっていたからといって既修者コースに行くという選択、それもありましたけれども、働きながらロースクールに通いたかったんですね。行政書士を続けたかったので、スケジュールがある程度ゆとりがあって、かつ基礎から勉強できるので未修者コースに入ろうと思いました。あとはロースクールですけれども、やっぱりお金かかるんですよね。毎年100万円単位のお金がかかります。私はその頃30手前でしたから、親に授業料を出してとも言えませんからね。自分で何とかしなくてはいけないんです。そういうこともあって働きながらロースクールに行きたかったので、未修者コースにして、行政書士の仕事は続けていました。続けて仕事しながら勉強するわけですが、やっぱりそこはバランスを上手く取らないと、仕事ばかりしていたら、お金は入ってくるけれど、勉強の成績は上がらない、試験に受からなきゃ意味がないことになってしまいますからそこは工夫が必要でした。仕事のときは仕事、勉強の時は勉強、短時間しかできないからこそ集中するという発想で勉強していました。
行政書士と司法試験
司法試験の勉強ですが、行政書士の勉強と実務の経験はやはり非常に役に立ちました。まず、試験科目が被っていますよね。最近は試験科目も多少変わってはいるようですが、それにしても憲法、行政法、民法、商法、基礎法学などは全部司法試験の範囲ですし、特に行政法なんていうのはロースクールに行く前にある程度専門的に勉強してきている人なんてほとんどいないんですよ。行政書士であれば、ある程度行政法の勉強をしてきているわけです。かつ、実務を経験しているならば、どういうところが行政法の中で実務上問題になるのかということも何となく分かっています。本当にびっくりしたのですが、行政法の司法試験の私が受けたときの本試験問題、これが入管手続に関係する問題だったんですよ。これはさすがにラッキーでしたが、今後も起こりうることですね。司法試験の傾向として実務的な問題が出題されやすいので、行政法を使った実務ってまさに行政書士の仕事じゃないですか。それがそのまま試験問題に出てくるなんてことが起きるならば、どう考えても圧倒的に有利ですよね。あともう一つですね、私が良かったなと思っているのは司法試験を受ける時の選択科目ですね。私は国際私法を選んだんですよ。これどんな科目かって言うと、大きく二つの分野があって、一つは国際取引法でもう一つは国際家族法ですね。準拠法って言うんですけれども、どこの国の人とどこの国の人が取引をした、あるいはどこの国の人と日本の人が結婚して離婚して子供がいるけれど、さあどうしよう、そういう話になったときにどこの国の法律を使って解決するのか、それを適用すると結果はどうなるのかっていう問題が出るんですけれども、これもその入管の仕事を行政書士で行っていれば、国際結婚、国際離婚で子供がいて親権などの問題をどうするか、そういった話っていうのはやっぱり日々接しているわけです。このように、試験科目が多く被っていることと、いざ問題を解く時に実務の経験から実感がわきやすいので、どういうところが問題になるのかというのが頭に浮かんでくると、司法試験を受ける前に行政手続の実務経験を積める仕事っていうのはそうそうないですから、我々行政書士をやった者が得られる非常に大きなメリットだろうと思います。このように、行政書士の経験は、司法試験の挑戦にとても役立ちます。FTS法務研修会のメンバーの中にも、働きながら司法試験や予備試験を目指している皆さんがいます。私もときどきアドバイスしながら、皆さんの挑戦を後押ししています。
行政書士出身の弁護士が願うこと
弁護士になってからは、企業法務と知的財産権を強みとするユアサハラ法律特許事務所で修業させていただき、10年目に独立をしました。現在はパートナーの藤井総弁護士と、弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を経営しています。私のチームでは、以前の私と同じように、働き、学び、挑戦する行政書士の皆さんに多く参加していただき、一緒に仕事をしています。当事務所では、研修会議といって、行政書士の皆さんと一緒に事務所内で実務のトレーニングを行っています。私の経験を共有し、実務のノウハウをフィードバックし、皆で勉強し、プレゼンの練習をしたり、法律家の経営戦略やキャリアアップを一緒に考える場です。私が行政書士事務所を始めた頃、一人で悩んで試行錯誤をしていた頃に、このような場があったら良かっただろうな、と思って始めたものです。当法律事務所では、行政書士としての実務経験がなくても、この研修会議で学び、少しずつ実案件に挑戦し、実力を伸ばしていくことができます。また、育児中の皆さんや司法試験受験生の皆さんもそれぞれのご都合・スケジュールに合わせて研修と業務ができるようになっています。

行政書士の資格を持ち、このような考え方にご賛同いただける皆さんには、ぜひ当法律事務所に参加していただき、研修会議でトレーニングをしながら、実務経験を積んで活躍していただきたいと思います。働き、学び、挑戦する行政書士が増えることで、自立した法律専門家がいきいきと力を発揮し、社会の活力となっていくことを願っています。​
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